2023年10月から12月にかけてNHKラジオで放送された「こころをよむ」(全13回)のテキスト。
たくさんの文化人たちが、震災の体験を書き残している。それを丹念に集めた。
歌人の釈迢空(しゃくちょうくう)=国文学者・折口信夫=は、大震災の翌々日の9月3日に台湾から横浜に着いて、その翌日、徒歩で東京の自宅に戻った。その道々、震災の惨状を目にし、のちに4行詩「砂けぶり」を発表した。
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横網の 安田の庭
猫一匹ゐる ひろさ―。
人を焼く臭ひでも してくれ。
さびしすぎる
(「砂けぶり」第1回第4連の一節。安田財閥の日本庭園に隣接する陸軍被服廠跡地で、数万人の避難民が焼け死んだことを念頭に置いている)
「自警団の咎めが厳重で、人間の凄まじさあさましさを痛感した」体験からは、
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横浜からあるいて来ました。
疲れきつたからだです。
そんなに、おどかさないでください。
朝鮮人になつて了(しま)ひたい様な気がします。
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井戸のなかへ
毒を入れてまはる朝鮮人――。
われわれを叱つて下さる(*2つめの「われ」は繰り返し記号)
神様のつかはしめだろう。
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かあゆい子どもが、大道で、
ぴちやぴちやしばいて居た。(*2つめの「ぴちや」は繰り返し記号)
あの音。
不逞帰順民の死骸の――。
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おん身らは、誰を殺したと思ふ
陛下のみ名において―。
おそろしい呪文だ。
陛下万歳 ばあんざあい
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政治学者の吉野作造は、朝鮮人虐殺事件について、「責任ある××が、この流言を伝播し且つ之を信ぜしむるに与(あずか)って力あったことは疑ないようだ」と書いた。著者はこの「××」の伏字に入るのは、「官憲」と推測している。 (*は筆者=ピカテンの注)
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