シャニダール洞窟はイラク、イラン、トルコ3国の国境が交わる山岳地帯に位置する。著者が1951年から60年にかけて数次にわたって発掘調査した時も、クルド人たちがこの洞窟を住居として利用していた。

 発掘の結果、28体ものネアンデルタールの骨が見つかった。ネアンデルタールの墓場だったのだ。落石で事故死した遺骨もあった(この地方は地震の多発地帯でもある)。障害のある者も含まれていた。花粉分析から墓には花が添えられていたことが分かった。

 障害者をいたわり、花を愛で、死を悼む。ネアンデルタールは今の人々と変わらぬ「人間性」を保有していた証拠と考えられた。この本の原題は「シャニダール 最初に花を愛でた人びと」。邦題より原題の方がいいんじゃないかしらん?

 ネアンデルタールが「死者に花を手向けていた」ことを明らかにして、世界的に有名になったシャニダールだが、近年になって、このことを疑問視する研究をどこかで目にした記憶がある。当時はネアンデルタールから現生人類へと進化の道筋が描かれていた時代で、アフリカ単一起源が濃厚になった現在から見ると少々違和感のある記述もある。

 洞窟内での発掘風景だけでなく、当時のクルド人の生活ぶりも見たまま、体験したまま描かれていて、民族学・民俗学のうえでも興味深い。

 私のような老人には、活字が小さすぎるのが難点。