物理学博士号を持つ科学ジャーナリストと代替医療の施術と研究に従事する大学教授による共著。ちまたには医療や健康に関する、うさんくさい本がハンランしている(新聞の一面下段の広告には、その類が毎日目白押しだ)けれど、それらとは明らかに異なる。
もちろん、ここに書かれていることがすべて正しいかどうかは、私には判断できない。代替医療に従事している人たちからは、当然反論があるだろう。でも、著者のよりどころとする科学的検証方法は、おおむね正しい態度と私には思われる。
世界中には通常の病院で行われる医療とは別の代替医療がごまんとある。その主なものは巻末の大部な一覧に譲るとして、主として検証にかけられたのはハリ(鍼)、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法の4つ。いずれも世界中で多数の患者が治療を受けており、多大な医療費が支払われている。
盲検法(患者には分からないように、一群にはその治療法を施し、他群には施さないで、その治療法の効果を比較する)や二重盲検法(患者だけでなく施術する医療関係者側にも、どの一群がその治療法を受けているか、分からないようにして効果を検証する)の結果、代替医療のいずれもが、まったく治療効果が確認されないか、確認されたとしてもきわめてあいまいで微かであった、という。
代替医療には、偽薬や偽医療をホンモノと信じ込ませて施した際に患者が示す治療効果(プラセボ効果)以上のものは見出せなかった。
ハリのよりどころである、東洋医学で言うところの「気」だの気が流れる「経路」だのを、私はもともとあんまり信じていない。だって実際に「気」の実在が示されたことはないのだから。ちょっと眉唾っぽいなあ・・・と感じてもいた。
でもハリ治療そのものは、それなりに何か治療効果があるのだろうな、と思っていた。だって、これだけ多数の人が受けているのだから。それが、単なる心理効果・プラセボ効果であるとは思ってもいなかった。
いわゆる正当は科学的医療だって、心理的側面の占める効果は大きい。その医療法や施術者に信頼を置けば、効果が増すだろうことは、素人にだって想像に難くない。
その医療が「ほんもの」か「にせもの」か、なんて関係ない。要は「治ればいいのだ」という考え方だってある。積極的にプラセボ効果を活かす治療法だって有効だろう。
信じ込ませれば、単なる食塩水でも麻酔薬代わりになるし、デンプン粉でも万病に利くのは、科学的に証明されている。「イワシの頭も信心から」は正しい。
病人から血を抜く「瀉血」は、19世紀まで西洋を中心に続いた一般的な治療法だった。今では特別な病気を除いて「百害あって一利なし」と排除されているけれど、当時はそれなりに治療として「効果」が認められた。治療を受けた、という心理効果は確かにあったのだろう。
前世紀まで世界中で行われていた祈祷師やシャーマンによるお祓いだって病気を治すのに効果をあげていた。今だって、未開地域では活躍している。
ハリやカイロプラクティックなど、文明国たる日本でも大手を振るって看板を掲げている治療法が、このイワシの頭や祈祷師の類と同列だと、この本の著者は言うのである(直裁にそう表現した箇所はないけれど、確かにそう読める)。
ハリの愛好者?たるカミさんに、この本のことを教えると、言下に一蹴した。「受けたことがないから(ハリが)利かない、などと言うのだ」。これだけの「信心」があれば、確かに利くだろうなぁ~。
教訓1 医療の効果を期待するなら、なんでもいいからその治療法や医者を盲目的に信ずべし。
教訓2 文明国といえども祈祷師に治療をゆだねる未開国と、たいして差はない。