バンコクを早々に退散して、美人が多いと聞かされたチェンマイを目指す。昔、日本人がハーレムをつくったとかで,あわよくば俺も、なーんて、よからね夢想を抱きながら---。
 
 チェンマイのバスステーションから安宿の多い、旧市街までは2キロ余り。一緒のバスに乗ってきたフランスの娘さんと一緒に、旧市街地行きの乗り合いバスを探す。例によってトクトク(三輪タクシー)の呼び込みがうるさい。
 このフランス娘、断固、トクトクを拒否。乗り合いバスをようやく見つけたものの、座席はすでにいっぱい。なのに運転手は大きな荷物を持ったわれわれを、無理やり詰め込もうとする。
 フランス娘は断固「NEXT!」
 運転手はしつこく「乗れ。次はない」。でも、断固拒否。あとがないわけがない。
 
 彼女が持っているガイドブックを頼りに、宿探しを始める。彼女の勘違いらしく、乗り合いバスを降りた場所が早すぎたらしい。旧市街まで少々距離がある。
 「Sorry。私は地図が読めない。アタマが悪い。けど足はグッド」。暑い日差しの下、どんどん歩く。彼女に謝られる筋合いはない。こっちは彼女のガイドブックと英会話力を頼りに、勝手に付いて来ただけだから。
 小柄な体に、俺の2倍くらいありそうな、でかいリュックを背負っていた。確かにがっちりした体格。
 思い出した。スコータイのステーションで、斜めうしろのいすに座っていた娘だ。大きなリュックの下半分を、土のうなどを作る際に使う化繊袋で包んでいた。リュックを地面に置いたとき、これだと汚れない。格好なんか気にしない。
 「いつもはステーションから市街地まで歩くの。たいていは近いから。ここは遠いし、暑いわねぇ」。顔を真っ赤にしてどんどん進む。
 
 タイからスタートして、6月までラオス、カンボジア、ベトナムなどを一人で回わる。いい根性をしている。西欧の娘たちがリュックをかついで、東南アジアを長期間旅行する姿はよく目にする。でもたいがいは二人連れ。一人もたまにはいるけれど。ほんとにたくましい。
 
 彼女には目当ての安宿があった。ステーションからすでに電話してあったらしい。宿のカウンターで俺の分も交渉してくれたが、あいにくエアコン付きの高い部屋(1泊280バーツ、900円少々)しか空いていない。彼女の部屋は200バーツ。
 「高いけどどうする?オーケー?」と、こちらの懐具合まで心配してくれた。
 
 次の朝、食堂で会うと。「こんな騒々しくて慌しい都会は好きじゃない。Mae Hong Sonに行って5日間のトレッキングに参加する」と、その日のうちにチェンマイを後にした。
 
 たしかにチェンマイは近代的な観光大都市だった。旧市街地はガイジンさんであふれていた。カネをいっぱい持ったような観光客も多い。ガイジンさんと現地の女性とのカップルも目に付く。安宿の周りは欧米人相手の酒場も多く、前夜は2時ころまで騒々しかった。
 
 クソッ、タイのこんな奥地くんだりまで毛唐のツラを見に来たんじゃないわい。ちょっと悔し紛れに、独りほざいてみる。
 当初は、チェンマイで10日間ほども過ごすつもりだったけれど、俺も早々に退散すっか。
 
 で、今はタイとラオスとミャンマーの国境が接する、ゴールデントライアングルの近くまで来てしまった。