[Guest House事情]
 前回も安宿のことを書いたが、利用したのはもっぱらゲスト・ハウス。3国にとっては、日本の安旅館みたいなもんで、日本の田舎の旅館やビジネスホテルより安くて、手軽。
 目的地に着いたらまずねぐら探し。以前紹介したひとり旅の達人、佐藤老は「最初に近くのレストランで飯を食う。そして適当な宿はないか、店の人に聞く」
 バスなどから下りると、トクトク(三輪タクシー)やバイクの雲助たちが群がってくる。彼らを利用するのもひとつの方法だが、彼らは客を紹介する見返りに宿側から紹介料をいただいているようで、どーも値段の割にはあまりいいところに連れて行かれた覚えがない。
 私の場合も、近くの店(食堂でも普通の雑貨屋でもいい)に入って、トクトクやバイクを振り切り、そこでゲスト・ハウスのありそうな方向と距離を聞く。あとはできるだけ歩き、手当たり次第にフロントに行って、値段を尋ね、部屋を見せてもらう。そうこうするうちにだいたいの相場が分かる。
  

 たいていの町に1軒や2軒のゲスト・ハウスがある。今回、1度だけ見つけられなかったことがあった。タイのチェンマイに近いランパンで、たいがいの観光客にとっては、チェンマイに行く途中に通過するだけの町である。バス・ステーションの周囲を歩いてようやく見つけたのは、1泊900バーツ(約3000円)のホテルだけ。ゲスト・ハウスなら200~300バーツ(100円=約30バーツ)。ばかばかしいから、この地での宿泊予定を急きょ変更して、その夜の寝台夜行列車に乗り、アユタヤに向かった。
  

 同じゲスト・ハウスでもサービスにかなりの違いがある。部屋掃除、ベッド・メーク、タオル交換、石鹸・シャンプー・使い捨て歯ブラシの補給が毎日あるところから、まったくないところまで千差万別。毛布・タオルケットさえない宿もあった。タイはホテルも含め使い捨て歯ブラシは置いてなかった。
 枕カバーやシーツを、もう何ヵ月間も換えてないような宿もあった。歴代利用者のアブラがこってりしみこんだシーツと毛布を前に、とても下着で寝る気にならず、やむなく服を着たまま寝た。ベッドはますます汚れる。途中で薄い長袖のトレーナーを買って(上下合わせて500円くらい)、室内着兼パジャマにした。
  

 壁や床、天井が隙間だらけで、いくら蚊取り線香を焚いても、ブヨ・蚊に悩まされたところも。当たり前のことだが、やはり見た目も古い施設には、こうした問題が多い。
 ほとんどが水だけのシャワー、お湯が出るところは少し高め。エアコンのある、なしで2~5$くらいの価格差がある。特にベトナム、カンボジアでは、エアコン付き部屋が扇風機だけの部屋の2倍近くもするのにはあきれた。
  

 [荷物は小さく]
 持っていく衣類を極力少なくするため、Tシャツと下着は毎日洗濯した。ベトナム、カンボジアのゲスト・ハウスには洗濯機、冷蔵庫、電気掃除機はない。山のような洗濯物を住み込みの女の子たちが手洗いしていた。町に洗濯屋が多く、1キロの洗濯物を1$以下で洗ってくれる。
 帽子とサンダルは必需品。サンダルは外でも使うが、軽く水洗いすれば室内用にもなる。シャワーとトイレが一緒のところが大半だから、べちゃべちゃの足元がいやならサンダルをトイレ用にすることもできて重宝。
 ふだん外を歩くときは短パン、Tシャツでも、長袖シャツ・ズボンが必要。タイ北部など夜の寒さ対策もあるが、蚊よけとしても便利。ネットカフェの机の下の暗がりには、決まって蚊がいた。バスや列車の中にもいる。現地の人たちはなんでもないようなのに、私はたちまち刺された。見ていると欧米人も悩まされていた。現地の人たちは、何か蚊を寄せ付けない体質のようなものを生得しているのだろうか?
 虫除け、蚊取り線香なども必需品だが、衣類、サンダルも含めなんでも現地で安く手に入る。あちらで購入するのも「手」である。観光客相手でない一般の市民相手のマーケットで買うのがベスト。虫除け(mosquito repellent)スプレーは値段の割には効き目が弱いし、たちまちカラになる。私の感じでは、塗布用の方が少しましなよう。
  

 今回はバカチョンのほかに一眼レフカメラと望遠レンズ、充電器、変圧器などを持って行ったため、バックパッカー並みの荷物になったが、これがなければ、大きめのサブザック1つにまとめられるほどの量だった。
  

 [通貨]
 ベトナムはドン。「Vietnamese dollar」なんて呼ぶこともある。1$は15,000~16、000ドン。サイゴンなら「円」からドンに両替が可能だが、ちまたにいっぱいある小さな両替屋はドルのみ扱う。メコンデルタの中心都市カントーでは、銀行でも「円」からの両替はしてもらえなかった。
 カンボジアはリェラ。1$=4、000リェラきっかり。ドル紙幣が住民の日常生活で恒常的に通用している。両替の必要がない。ドルで支払い、リェラで釣りをもらう。釣りがドルのこともある。
 タイはバーツ。1$は32~30バーツ。バンコクはもちろん小さな地方都市の銀行でも「円」からバーツに交換してくれた。ドルを持っていく必要はなさそう。
  

 [言葉]
 ベトナムはサイゴンなら結構英語が通じるが、地方都市では英語を解する人がぐんと少なくなる。ベトナム語は表記がアルファベットなので一応読めるけど、地名などそのまま発音しても現地の人にはなかなか通じない。行き先を告げる際などは、地図の表記をそのまま示した方が通りがいい。
 カンボジアはクメール文字。英語を解する人は少ない。看板などは英語表記も目に付く。ただし、外来語をアルファベット表記した感じで、つづりなどは本来の英語表記から考えると、でたらめなことが多い。現地の地名・固有名詞のアルファベット表記は、日本の外来語表記と同じで、必ずしも一定でない。
 タイも英語が分かる人は少ない。かつ看板、道標なども英語表記は少なくて、タイ文字だけのことが多い。多分、外来語やアルファベットの氾濫を意識的に抑えているのではないか。われらタイ文字の読めない外人旅行者は閉口する。
  

 [交通の便]
 タイは長距離の都市間はもちろん、町と町を結ぶ路線バスがきめ細かく走っていて便利、かつ安い。
 定時のダイヤで走るバスがない田舎には、個人運行のミニバスが走っている。小型トラックの荷台に、互いに向き合った座席と屋根を付けた、12,3人も乗れば満員になる乗り合い「バス」。助手席に加え、後ろのデッキにもぶら下がれば20人近くが乗れる。カンボジアなら屋根の上にまで人が鈴なりになる。満員になればすぐ発車するが、客が集まらなければ2時間以上も待ちぼうけを食らうこともある。あとは運転手の気分次第。
 ベトナム、カンボジアの場合、ほとんどが私営バスで、原則予約制(始発地で空席があれば、事前に予約しなくても乗せてくれるケースはある)。始発地以外で乗ろうとするなら、事前に予約をすることが絶対必要。日本のようにバス停で待てば、定時にバスが来て乗せてくれる、ということはまずない。
 バス代は安いけど、繁忙期には少し高めの特別料金になる。例えばカンボジアの首都プノンペンにあるキャピタル・ツアーという旅行会社が運行する長距離バスの場合、アンコールワットのあるシェムリアップまで、通常1700リェラ(4.25$)が、旧正月の前後は2500リェラ(6.25$)に跳ね上がる。運行主体によって値段が少々異なり、ホテルなどで手配すると、さらに手数料を上乗せされる。
  

 列車はかなり不便。私はタイで3度乗っただけ。鈍行は安い。カンボジアとタイとの国境の町アランヤプラテート-バンコク間が48バーツ、バスなら確か7$(約220バーツ)くらいだった。
 バンコク-チェンマイのような長距離だと、一、二等席代金や急行料金などがかさみ、バスの方が安い。特にエアコンなしの路線バスは安い。
  

 自分で運転できるなら、三カ国ともバイクが便利。都市の周囲でも車が入れないような細い道しかない住宅街や、踏み分け道で隣町と結ばれている集落がある。ベトナム、カンボジアの大都市は、すさまじい数のバイクがまさに洪水のように流れていく。いくら幹線道路が整備されても、生活道の大幅な拡幅がなされない限り、バイクは減りそうにない。立派な車を持っているサイゴンの知人も、ふだんはバイクに乗っている。