以下は前回書いた「ルーシーの子供たち」からの抜粋・要約。

 ポールは若いチャクマヒヒでスコットランドの研究者が観察していた。ある日、ポールはメルという大人のメスが大きな草の根を掘るのを見ていた。ポールはあたりを見まわした。近くにほかのヒヒはいなかった。ポールは突然わめき声をあげた。ポールの母親が飛んできて、メルを追い払った。ポールはメルが置き去りにした草の根を食べた。

 ポールは、子供がいじめられていると母親に思わせて、まんまと食物を手に入れた。このような例は多い。「下位のチンパンジー・オスが発情期のメスに刺激されペニスを勃起させたところに、ボスが来た。下位オスはペニスを手で隠し、ボスから攻撃されずにすませた」「メスのマントヒヒが、ボスの目を盗んでお気に入りの下位オスと仲良く毛づくろいする」

 これら欺瞞者たちは他人の頭の中で進行していることを想像して、行動している。メスのマントヒヒは愛人オスと毛づくろいをしているところを見つかったら、ボスから攻撃されることを知っている。勃起させたオスもボスの心を読んでいる。2頭とも「生まれつきの心理学者」なのである。

 「欺瞞は自然の芸術である」。昆虫は植物を模倣し、無害なヘビは猛毒ヘビの外見を模倣し、ネコは毛を逆立てて、自分を大きく見せかける。

 ミシガン大学のリチャード・アリグザンダーの言。

 「われわれの日常生活に欺瞞がどれほど浸透しているかは、自分がたびたび風呂に入り、ひげを剃り、デオドラントをつけ、化粧をし、つけまつげをつけ、肩パッドなど身体を隠したり実物以上に見せかけたりする服を選び、踵を高くした靴をはき、口にミントを入れ、礼儀正しい微笑を浮かべて職場に入っていくか、を考えれば明白だ」

 人間の脳のはたらきは進化の軌跡の産物である。アリグザンダーによれば「グループ内、そしてグループ間の尽きることのない激しい利益の対立を燃料として、知性はどこまでも暴走する」。「人間が、それに先立つ他の生き物をはるかに引き離した存在になった理由の説明として、ただ1つ納得できる方法は、人間だけが、自然界において人間の主な敵になったと想定することである」

 「良かれ悪しかれ、人類が人類をつくりだしたのだ」

――類人猿や大昔の人類だけのことではない。なんだか現代の自分自身を見ているような気分にさせられる。複雑な社会生活を生き抜くために知能が発達し、他人の心を読み、欺く能力に長け、あるいは自分では意識しないほど自然な欺瞞を身にまとい・・・

♪作り笑いがうまくなりました♪~と中島みゆきが歌っていた。

 これも周りが敵だらけの人間社会を生き抜くための擬態なのでしょう。