現代日本において勇気があるのは、やっぱり女だねぇ~。

ケニアに魅せられ、同国を拠点に派遣添乗員をしながらマサイの男に惚れ、ついに、その第2夫人におさまってしまうのだから。

国境を越えた結婚だけでも大変なのに、お相手がライオン7頭に象まで殺したことのある勇猛果敢なマサイ戦士である。伝統に生きようとする彼らの文化を尊重しながら、軽々と国境や民族の壁を越えていく、著者の勇猛果敢さに脱帽。

 

ケニア西部からタンザニア北部にまたがるマサイ・ランドのマサイ一族も、時代の波に否応なくもてあそばれている。国立公園や自然保護区化で、彼らが自由に移動し放牧してきた土地が、どんどん狭められてきた。牧畜だけでは生活できなくなった多くのマサイは観光客を受け入れ、その収入で生活することを強いられつつある。

 

その中で、マサイ・マラ国立保護区の一角にあるエナイボルクルム村は、比較的恵まれた環境が幸いして、土着の民族信仰と伝統的な生活を守っている。

その村で10年に1度の戦士通過儀礼エウノトを見学した著者は、超カッコイイ1人の戦士にひきつけられた。それが現在の夫君のジャクソン氏。

越えられない出自の違いに戸惑いながらも、第1夫人の家族や義兄夫婦らとこだわりのない交流を深めている。べたべたしたスキンシップよりも互いの信頼で結ばれるマサイの家族。彼らと日本や西欧との性生活の違いなども率直に書かれていて、この著者の気取りのなさが、マサイ戦士の心を捉えたのであろうことも想像がつく。

 

白人たちはマサイにもキリスト教の布教を進めている。学校建設や井戸掘り、医療活動などの慈善事業を行い、着実に信者を増やしている。キリスト教ではマサイの戦士活動や割礼などは野蛮な行動と見なし、マサイの伝統的な文化とは異なる価値観を植え付けてきた。その結果、エウノトなどの伝統儀式が中止になる村も出てきた。いつもながらの白人たちの一方的な「善意」の押しつけ。

 

都会と村の両方を知り、マサイと他民族とのハーフでもある兄嫁が、著者に語った言葉が重い。

「生活が変化するのはもはや止められない。新しい時代の流れの中でもマサイの尊厳と伝統を残せる教育ができるのは、近代社会も伝統文化も知っている私やあなたのような人間しかいない」