最近の人類学はヒトの起源やら移動やらをDNAで明らかにしつつある。人類のルーツをさかのぼれるくらいだから、親子関係はもちろん何代か前の血縁関係も確実に判定できるらしい。

 

ニコラス・ウェイド著「5万年前 この時人類の壮大な旅が始まった」によると、アメリカ第3代大統領トマス・ジェファソンは、使用人の黒人女性奴隷に子供を生ませていたことが、DNA鑑定で証明されたのだそうだ。

彼が現職時代から、政敵のメディアでは、このゴシップが何度か取り上げられていた。「奴隷の子供が大統領に生き写しだ」。当時は人口に膾炙していたことだったのかもしれない。

最近までまともな歴史学者のほとんどは、このゴシップを信じていなかったが、現存する子孫の遺伝子を調べた結果、間違いなく大統領の遺伝子が彼女の子孫に伝わっていることを明らかにしたそうな。

 

また、ある調査によると、法的な親子関係の5%は、遺伝子上は親子ではなかった。もちろんこの場合の親は父親に限られる。乳幼児の取り違えでも起きない限り、母親がその子と遺伝子上の親子関係がない、などということは考えられない。

つまりは、100組の親子関係があれば、そのうち5組の父親は他の男の子供を育てていることになる。もちろん、ほとんどはそれと知らぬままに。動物なんかではよくある話だし、はなはだしいケースではカッコウのように、他の種に自分の子どもを育てさせることもあるから、5%のタネ違いなどたいしたことではない。

 

先日、オセアニア関係の研究者から、次のような話を聞いた。

オセアニアのある島(あるいは集落かも)を対象に、全住民の遺伝子調査を計画した研究者がいた。住民の血縁関係を明らかにしたり、しいてはオセアニアの人々がどこから来たか、のルーツを探る手がかりが得られるかもしれない。

でも・・・この研究が実施されるかどうかは微妙だそうだ。住民全員の遺伝子が明らかにされたら、遺伝子レベルでの親子関係が白日の下にさらされる。こんな結果が住民の目に触れたら大騒動だ。不倫がいっぺんにばれてしまう。何代にもさかのぼって。

 

日本の場合、「家」が家系の基本だから、家系図に載っている先祖-子孫は、遺伝子を引き継いでいないケースがきわめて多いだろう。ご先祖様を20代もさかのぼれば1人や2人、不倫の子が跡継ぎになっていても確率的にはおかしくない。そんな下ネタみたいな想像をしなくとも、養子縁組は頻繁だったから、遺伝子が繋がっている方が珍しいのではないかしらん?

まあ、どんな不倫も養子縁組もなかったとしても、江戸時代以前のご先祖の遺伝子なんぞは、微々たるもんだろうなぁ。だって、たかだか20代前でも「2」の20乗の「親」がいる。ゆうに100万人を超える。1世代を30年として計算すると600年前。そのころ日本列島に1000万人もいたのかどうか?

家系図に残る「○○家」遺伝子だけが特別扱いされて子孫に伝わるとは考えられんから、フィギアスケートの織田ナントヤラ君が、織田信長の遺伝子を濃厚に伝えているなんてことはないだろう。

でも、ナントヤラ君と信長の肖像画は、面長なところが似ているような気がしないでもないね。もっと似てるのは桃屋のキャラかも。もしかしたら、三木のりへいの方が信長の遺伝子をたくさん引き継いでいたりして・・・まさか!