アンコール・ワット遺跡群は規模も美しさも、これまで訪ねた遺跡の中では群を抜いている。日本人観光客が多く訪れるタイのアユタヤやスコータイとは比べものにならない。

 個人的にはワット本体よりアンコール・トムの方が好きだ。建造物主体のワットに対し、トムの大石彫や大レリーフが、私の好みに合う。

 

 もっと好きなのは、Ta Prohm。建物の一部や石塀が崩れ、廃寺を思わせる雰囲気が漂っている。その崩れた石材を巨木が抱き込み、生き物のようなその根が石と石の隙間に入り込む。悠久の時間の流れを感じさせる独特の景観。日本の援助できれいに修復され、石畳の通路なども整備されたワットやトムに比べると、規模の上ではひとまわり小ぶりだが、ひと味もふた味も違った趣がある。

 

 2年ぶりに訪れたら、このTa Prohm遺跡でも改修工事が始まってしまっていた。正面入り口からメインの建物にかけて、通路の建設工事が進んでいた。裏に回ると石塀に足場をつくって改修工事が行われていた。建物本体の修復もされたらしく、立ち入り禁止区域が減っていた。

 

 崩れかけた古い建造物の独特の味わいとは不釣り合いな、コンクリートも使ったまっすぐな規格通路。なんとも雰囲気が壊れる。ここもワットやトムと同じように、あまりにもきれいに整備されてしまうのだろうか?もったいない。

 石材に食い込んだ巨木を取り除いて、建設当時の姿に戻すなんて無謀なことは、まさかしないだろうとは思うが、いささか心配。

 

崩れた石壁の上に立つと、足元がぐらつく石材もあるから、修復工事は観光客の安全を考えた上での処置なのかもしれない。

でも・・・立ち入り禁止区域をもっと増やしてもいい。他では得難いこの雰囲気、景観を残すため、廃寺然とした現状を維持してほしい、と鄙びた雰囲気好きの萎びた男は切に願うのであります。